指定難病208 修正大血管転位症

1.概 要

修正大血管転位症 corrected transposition of the great arteries(cTGA)は稀な先天性心疾患であり、頻度は0.03人/1000人(出生)と推定されている。本症は右心房が左心室―肺動脈へとつながり、左心房が右心室―大動脈へとつながる奇形であり、他の心奇形合併が無ければ静脈血は肺動脈へ、肺静脈血は大動脈と流れ、血流方向としては正常に修正されている。本症の80%以上が他の心奇形や房室間刺激伝導系の異常を合併し、様々な血行動態と多彩な臨床症状を呈し、病態に合わせた治療・管理が必要となる。また房室ブロックや頻拍発作などの不整脈の合併も多い。


2.原因・解剖

発生初期に心筒が右への屈曲(d-loop)ではなく、左に屈曲(l-loop)することによると考えられている。体左右軸の決定に関与する遺伝子lrdの突然変異の症例報告がある 大部分の症例は心室中隔欠損(60-80%)、肺動脈狭窄または肺動脈閉鎖(30-50%)、三尖弁異常(Ebstein奇形)、心房中隔欠損、両大血管右室起始症等を認める。刺激伝導系は正常の房室結節ではなく、前方にある房室結節からHis束から出て肺動脈の前方を迂回するという特徴を持つ。その為、先天的に長いHis束が房室ブロックの原因と考えられる。また回帰性頻拍発作も存在する場合がある。

3.病 態

解剖学的右心室が体循環心室としての役割を果たしており、加齢と共にポンプ機能が低下する。特に三尖弁閉鎖不全の併発は心機能の低下を早め、心不全を促進する。原因としては、右心室は一本の冠動脈支配であること、刺激伝導系も右脚一本であること、右心室と三尖弁が高圧系を支えるのには形態的にも不適当であることが挙げられる。合併する心内奇形により心負荷や症状は変化し、心室中隔欠損合併では肺血流量増加と右心室負荷となり、肺動脈狭窄合併では肺血流量の程度により重度のチアノーゼを呈することもあり、また肺動脈閉鎖症では動脈管依存性となり早期の手術が必要となる。心内合併奇形を伴わない例も当初は無症状であることも多いが、加齢に伴い右心不全、不整脈の合併が出現する。45歳までに心不全を呈する割合は合併症が無い場合でも25%と報告されている。




Figure: 様々なタイプの修正大血管転位症
A: 合併症の無いisolated cTGA
B: 心室中隔欠損症(VSD)を合併したcTGA C: 両大血管右室起始症(DORV)と肺動脈狭窄または閉鎖を合併したcTGA
RA: 右心房 RV: 右心室 LA: 左心房 LV: 左心室
Ao: 大動脈 PA: 肺動脈 SVC: 上大静脈 IVC: 下大静脈

4.臨床症状・所見

臨床症状は合併症や他の合併奇形により決定され、生後早期に心不全症状を来たす症例から成人期になっても重篤な症状が出現せずに生涯を全うされる症例まで様々である。大きな心室中隔欠損合併例では心容量負荷による心不全と高肺血流性肺高血圧を生じる。心室中隔欠損+肺動脈狭窄(閉鎖)の症例では狭窄の程度によりチアノーゼが出現することもあり、肺動脈閉鎖合併例では出生直後よりチアノーゼを呈することが多く、動脈管依存の血行動態となる。また三尖弁閉鎖不全の程度も高く、幼児期から出現する症例もあり、心不全を生じる。重度の房室ブロックではふらつきや失神、頻拍発作に伴う動悸が出現する。
身体所見に関しては、合併奇形が無い症例は心雑音が無い場合も多い。心室中隔欠損や肺動脈狭窄、三尖弁逆流を合併する症例は収縮期雑音を聴取する。また上行大動脈が肺動脈より前面を走行するため、Ⅱ音が亢進して聞かれる。

5.検 査

① 胸部レントゲン
心臓の位置は様々であり、mesocardia(正中)、dextrocardia(右心)、levocardia(左心)といずれも見られる。大きな心奇形を合併していないlevocardia症例では左1,2,3のラインがなだらかになる。これは左前方に大動脈が走行している為である。大きな心室中隔欠損がある場合は心拡大と肺血管陰影増強が見られる、心室中隔欠損症+肺動脈狭窄合併例では心拡大や肺血管陰影は肺血流の程度によって所見は異なる。三尖弁閉鎖不全合併症例では心拡大が見られる。
② 心電図
心奇形を合併しない症例では、左軸偏位となり右側誘導とV1にQR型と陽性T波の所見となる。心室中隔欠損や肺動脈狭窄を合併すると右軸偏位とV1のqR型になることもある。また様々な程度の房室ブロックを呈し、進行性であり1度から完全房室ブロックまで進行する場合もある。
③ 心臓超音波検査
本症では心室が左右逆になっている。超音波検査では体静脈や肺静脈の還流の位置、心室の位置関係、大血管の接続について評価をして診断を行う。右心室は左心室に比べて肉柱形態が粗く、左心室は乳頭筋が二本でほぼ均等である。心室中隔面や弁形態の観察により心室位を決定する。心室中隔は胸壁に対して垂直になることが多い。大動脈が前方から起始し、また後方の肺動脈とは交差せずに平行に走行する。右心室から大動脈が、左心室から肺動脈が起始している。三尖弁逆流を合併することが多く、Ebstein奇形様の変化を起こすこともあり三尖弁の評価は必須である。また、心室中隔欠損や肺動脈狭窄の評価も超音波検査で行う。心機能評価について右心室は複雑な形態をしている為MRIが望ましいが、3Dによる容積と駆出率評価は有用である報告がある。またfractional area change(FAC)やTei-index、組織ドプラ検査による評価も行われている。
④ 心臓カテーテル検査
圧や短絡所見は、合併奇形の無い症例では特に異常は無い。左心室の圧が低く、右心室の圧が高い。造影検査では右側心室造影にて解剖的左心室が造影され、肺動脈が後上方より起始する。左側心室造影では解剖的右心室が造影され左前方から大動脈が起始する。心室中隔欠損や肺動脈狭窄合併症例では、肺体血流比の変化や左心室圧上昇等の所見がある。
⑤ MRI
位相コントラスト法による逆流率測定やcine法による右心室機能評価が有用である。



6.治療法

本症に対する治療としては、心不全や不整脈に対する対症療法(薬剤・ペースメーカー、カテーテル治療)と機能的・解剖学的な手術治療がある。
三尖弁逆流による心拡大や右心室機能不全に対しては利尿剤や血管拡張剤、βブロッカー等が用いられる。不整脈に対しては薬物療法、カテーテルアブレーション、ペースメーカー留置が症状改善の為に行われる。また近年では体心室である右心室機能低下に対して心室再同期療法が有用であったという報告もある。
本症例の手術介入は新生児期から高齢者まで様々である。心内に合併奇形がある場合は新生児期、幼児期からの治療が必要になるが、将来的な方針を考慮しながら手術治療を選択することが必要である。また合併症が無い症例も加齢とともに右心室機能不全や三尖弁閉鎖不全が進行する為、早期の介入が必要になることも考慮に入れる。
手術治療は、解剖学的右心室をそのまま体心室として使用するconventional型、解剖学的左心室を体心室として使用するdouble switch型、両心室を体心室として使用するFontan型に分けられる。
まずconventional型は心室中隔欠損の閉鎖や左室流出路、肺動脈に対する介入(肺動脈弁形成術、Rastelli手術含む)、三尖弁形成術・置換術等である。成人症例では解剖的左心室の圧が低く、後述するdouble switch型手術は通常行わない。遠隔期の問題点は右心室機能低下、三尖弁閉鎖不全、左室流出路から肺動脈にかけての狭窄である。
Double switch型は、Jatene+Senning手術を行う方法とRastelli+Senning手術を行う方法に分かれる。症例によっては両方向性Glenn手術を追加し心房内血流転換を下大静脈からの血流だけにする術式もある。解剖学的左心室を体心室として使用するには高圧の体循環を支える必要があるため、合併奇形が無く左心室が低圧系になっている場合はそのままではswitch手術後に循環が保つことが出来ない為、予め肺動脈絞扼術を行い左心室トレーニングする必要がある。肺動脈絞扼術は複数回になる事もあり、また左心室機能不全が起こる場合もある。手術には左心室圧/右心室圧0.75以上が必要との報告もある。大きな心室中隔欠損症がある場合は右心室内に左心室―大動脈ルートを作成し、右心室から心外導管を用いて肺動脈を再建する。重度の三尖弁逆流や右心室容量が小さな場合や解剖学的な問題点(心房が後方に位置する)等の場合、両方向性Glenn手術を追加した術式を行うこともある。
左右心室が不均衡である場合や僧房弁や三尖弁のstraddling、多発性筋性部心室中隔欠損症等で閉鎖困難な時は機能的根治術であるFontan手術が選択される場合もある。


Figure: Double switch手術
D: Jatene+Senning手術
E: Rastelli+Senning手術

7.予後・管理

Conventional型治療の生命予後としては術後10年で70%前後の報告が多い。解剖学的左心室を体心室とするdouble switch型が将来的な心機能保持には有利に働くようにも考えられるが、前述した肺動脈トレーニングにより左心室機能不全に陥る症例が存在すること、また手術後も心房内手術に起因する不整脈の可能性もある。どの治療を選択するかは施設の考え方・基準があり、また症例の状態・合併奇形によっても変わる。方針決定に関しては十分な検討が必要である。
近年は胎児診断、心臓検診や各種モダリティの進歩により早期に発見されることが多くなってきている。大きな合併症がある症例は身体症状が存在することが多い為治療介入は早期になるが、症状が無い症例も多い。三尖弁閉鎖不全や右心室機能不全は進行性であり、本症が疑われたら早期に小児循環器専門施設への紹介が必要である。専門施設での定期的検査やフォローアップが必要である。成人期の移行に関しては成人先天性心疾患専門施設が望ましい。
妊娠・出産については症例の状態による。手術歴の有無や術式、血行動態的な問題点により大きく変わる。状態によっては循環器専門医施設・集中治療可能施設での出産が望ましく、各科の協力のもと妊娠・分娩管理が必要になる。Fontan型手術を施行した患者についてはFontan手術後患者の妊娠・出産を参照する。

 

 
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