厚労科研「単心室循環症候群の予後に関する研究」
AMED「単心室症候群の治療管理の質を高めるための研究」
合同研究班 ~診療指針~

総論 単心室循環の心不全治療


はじめに

単心室症、左心低形成症候群、三尖弁閉鎖症、心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の総称を単心室循環症候群という。体循環と肺循環の双方を、一つの心室に依存する血行動態をとるため、重度の慢性低酸素血症、多呼吸、易疲労感などの心不全症状を呈する。肺血流は増加、減少の双方が存在するが、肺血管低形成を合併することも多く、手術が不可能で、姑息手術しかできないことがある。唯一、チアノーゼを消失させる方法がフォンタン型手術であるが、根治的治療法ではなく、術後遠隔期には、全身の多臓器不全をきたす。労作時の易疲労のため、就業な困難な場合が多い。重度の慢性低酸素血症やフォンタン型手術後の循環破綻のため、長期予後は不良である。1-3)

1.症状

心不全、低酸素血症、右−左短絡自体、フォンタン循環破綻に由来する症状が認められる表1

2.治療法

厳密な適応基準を満たせばフォンタン型手術(図1:上下大静脈からの静脈血が心室を介さず肺動脈に直接還流するように血行動態を修正する手術)を施行する。ただ、順調なフォンタン循環であっても、通常は慢性うっ血性心不全状態であるため、いつかは破綻していくこととなる。フォンタン型手術は根治的手術ではない。また、フォンタン型手術適応外となった群には、効果的な薬物治療はなく、ACE阻害薬、利尿薬の効果は限定的であり、対症療法のみとなる。
フォンタン術後は、房室弁逆流や心機能不全を含む慢性心不全病態とそれに合併する不整脈、血栓形成などの予防、全身の循環不全および残存する全身チアノーゼに基づく多臓器障害を考慮した管理、治療戦略が重要である。フォンタン術後患者では、心機能不全よりも中心静脈圧(CVP)の上昇と低酸素血症が、予後悪化と関連することが報告されている。4) そのため、心不全管理においては,心室機能や末梢循環機能ばかりでなく,肺循環の管理や不整脈管理にも注意が必要となる.

主要な合併症への治療と対応 (表1表2

ⅰ)不整脈(詳細は不整脈の参照)
基礎心疾患がない場合は血行動態的に大きな影響を与えないような不整脈であっても,単心室循環では、血行動態の破綻や心室機能不全の悪化を来たし,心不全に至ることもある。フォンタン術後の不整脈は、心房拡大による心房性不整脈であるが、TCPC法がAPC法に比べ発症頻度が低いとされるが、発症頻度の差は明確でない。持続する心房頻拍は、心機能低下、心房内血栓形成を促進し、運動耐容能を低下させる。
治療:詳細は不整脈の参照。APC法の場合には人工導管を用いたTCPC 転換も考慮する(図1)。洞不全などの徐脈性不整脈もまれでなく、ペースメーカー植え込みの適応例も少なくない。

ⅱ)蛋白漏出性腸症 (PLE:protein losing enteropathy)(詳細は単心室血行動態の問題点の項目参照)
術後遠隔期の4-13%に発症し、PLEの予後は5年生存率が50%と極めて不良であることが報告されて以降、様々な治療法が試行されてきた。最近の血管拡張薬の進歩による発症後予後は、発症5年の死亡回避率は80%以上と改善している。
治療:ヘパリン注射、ステロイド内服、アルブミン補充などが試みられる. CVP上昇と感染がPLE発症や再燃の契機となる場合が多いことから、感染予防に努め、CVP低下を図る。心移植によりPLEの改善が期待できるが、Fontan術後移植患者ではほかの先天性心疾患患者の心移植患者より予後が悪く、今後の課題である。

ⅲ)血栓塞栓症(詳細は単心室血行動態の問題点の項目参照)
静脈鬱滞による心房拡大や心房性不整脈が原因となる。フォンタン循環での血栓は術後急性期や慢性期に関わらず生じ、経過とともにそのリスクは増加し、抗凝固剤非投与例で血栓関連の心事故が多いとされている。5)
治療:一般に血栓形成の危険因子を有する場合(血栓の存在、高CVP、低心拍出量、側副静脈路や人工導管の開窓術による右左短絡の存在、中等度以上の心室収縮性低下、APC法での拡大した右房、フォンタンルートの狭窄など)、心房頻拍性不整脈の既往がある場合等は積極的にワーファリンによる抗凝固剤の投与が考慮される。

ⅳ)低酸素血症
低酸素血症は、左側心房への側副静脈路、人工導管の開窓術や心房内パッチリーク、肺動静脈瘻形成により発生する。肺動静脈瘻は下大静脈欠損を伴う多脾症候群で好発し、肝静脈血流の不均衡が発生機序に関与していることが示唆されている。
治療:側副静脈路や人工導管やパッチリークはカテーテル治療あるいは外科的治療で閉鎖する。肺動静脈瘻には、コイル塞栓、肺血管拡張薬、フォンタンルート転換が試みられている。

ⅴ)心室機能不全
長期のチアノーゼ、体液貯留などの循環量の増加、遺残病変(大動脈縮窄症遺残など)による後負荷増加などが原因となる。術後遠隔期の心室機能不全の原因は、房室弁逆流及び心室流出路狭窄の存在、術後の急激な前負荷減少に伴う心筋重量容積比の増大と心室拡張能低下、心室同期異常、フォンタン循環の後負荷増大などの関与が推測される。心室形態別には右室性単心室で心室機能不全の発生頻度が高い。
治療:単心室循環症候群において、抗心不全療法は確立していない。心不全に対する血管拡張薬や利尿薬などの薬物により予後が改善されるかどうかも明らかではない。心不全治療には、強心薬,利尿薬,後負荷軽減のためアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII 受容体遮断薬(ARB),β遮断薬などが用いられる。侵襲的治療法として房室弁手術や心室同期療法の有効性が報告されている。心室機能低下を伴う難治性不整脈や強心剤依存状態例では心移植の適応と考えられている。

二心室循環または単心室循環に対するβ遮断薬の効果については,二重盲検試験などでは有効であるという確定した評価に至っていないが,ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類の改善や体心室の収縮末期容積の縮小に有効であったとする報告も増えてきている.7),8) 徐脈傾向のフォンタン術後患者では、β遮断薬使用により、むしろ血行動態を悪化させることがあり、注意が必要である。また,ACE 阻害薬やARB については,単心循環に対する効果については確立されてはいない.利尿薬は、浮腫、腹水や胸水などの体液貯留には有効であるが、死亡の独立危険因子であるため、不用意な使用は避けるべきである.8) 肺高血圧症(PH)により右心不全を生じた先天性心疾患の場合に,肺血管拡張薬が右心不全の改善に有効な報告はあるが、フォンタン循環の心不全に対する肺血管拡張薬の効果は明らかではない。

非薬物治療

術後遠隔期の続発症として弁逆流,流出路狭窄のために心不全を生じている症例に対しては,積極的に外科手術を考慮する.心室内の同期不全による心不全を生じた患者に対しては,心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy; CRT)が行われ,有効であるという報告が増えている. 9) 実際には、至適ペーシングの評価法や心筋リードの植込み位置,頚静脈リード挿入のための血管アクセスなどの植込み手技について課題が多く,この領域についての経験と知識の集積が必要である.

3.生活指導

フォンタン術後では、心肺機能は一般の70%程度であることが多く、運動はマイペースで、生活も規則正しく無理をしないように指導する。脱水により循環動態が悪化したり、血栓形成が生じたりするので、夏場の時期、アルコール摂取時、飛行機に乗る場合など水分補正などの注意が必要である。下肢血流は悪いので、長期の座位、屈曲位は避ける。妊娠出産によるリスクが高くなるため、妊娠前に医師とよく相談をし、場合によっては避妊が必要となる。遠隔期合併症を意識し、3-6か月毎の経過観察が必要であるが、患者の病態や重症度に応じた生活指導や管理が望まれる。小児期からの長い罹病期間のため、運動耐容能の低下に慣れを生じており,症状の訴えが少なく、病態を過小評価してしまうこともあるため注意が必要である。また、移行期においては、小児期の状態より重症度が高く合併症のリスクが上昇している病態である認識を患者とその家族とが共有することが重要となる。10)

図1. ファンタン型手


表1. 単心室症候群の症状・合併症


表2. 単心室循環の合併症と治療法



文 献

1)日本循環器学会.成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017 年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ichida_h.pdf
2) 丹羽公一郎編著.成人先天性心疾患.メジカルビュー社 2015.
3) 赤木禎治,伊藤浩編.成人先天性心疾患パーフェクトガイド.文光堂 2015.
4)Ohuchi H, Yasuda K, Miyazaki A, et al. Comparison of prognostic variables in children and adults with Fontan circulation. Int J Cardiol 2014;173:277-83

5) Takeuchi D, Inai K, Shinohara T, Nakanishi T, Park IS. Blood coagulation abnormalities and the usefulness of D-dimer level for detecting intracardiac thrombosis in adult Fontan patients. Int J Cardiol. 2016 Dec 1;224:139-144.

6) Shaddy RE, Boucek MM, Hsu DT, et al. Pediatric Carvedilol Study Group. Carvedilol for children and adolescents with heart failure: arandomized controlled trial. JAMA. 2007; 298: 1171–1179. PMID

7) Ishibashi N, Park IS, Waragai T, et al. Effect of Carvediol on heart failure in patients after fontan procedure. Circ J 2011;75;1394-99

8) Khairy P, Fernandes SM, Mayer JE Jr, et al. Long-term survival, modes of death, and predictors of mortality in patients with Fontan surgery. Circulation. 2008;117:85-92.

9) Janousek J, Gebauer RA, Abdul-Khaliq H, et al. Working Group for Cardiac Dysrhythmias and Electrophysiology of the Association for European Paediatric Cardiology. Cardiac resynchronisation therapy in paediatric and congenital heart disease: differential effects in various anatomical and functional substrates. Heart. 2009; 95:1165–1171.

 

 
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