指定難病188 多脾症


【概 念】

 内臓が左右対称性に形成される心房内臓錯位症候群のうち左側相同を呈する症候群。単に脾臓が複数個または分葉脾であることで診断されるものではない。心房、胸部臓器、腹部臓器すべてが左側に分類できない症例も存在する。多脾症とは基本的には心房、胸部内臓、腹部内臓すべてが左側構造であることを意味する。


【原 因】

 connexin遺伝子,ホメオボックス遺伝子などの関与が考えられている。

【頻 度】

 全先天性心疾患の0.5-1.0%

【症 状】

 合併心奇形による。肺血流量によりその症状は異なる。合併心奇形がない場合や心房中隔欠損のみの場合は、小児期は無症状である。年齢を重ねるにつれ洞徐脈、房室解離、発作性上室性頻脈などの不整脈を呈することがある。腸回転異常、総腸間膜症などによる腸閉塞のために嘔吐・腹痛を認めることもある。成人期で発見されることもあり注意を要する。胆道閉鎖などを合併し、新生児期より黄疸を認め、経過によるがその後肝硬変を呈し、肝移植を必要とする場合もある。肺動静脈瘻のためのチアノーゼが出現することもある。多脾症も無脾症ほどではないが、免疫機能が低下していることがあり、感染症には注意する。フォンタン手術施行例は手術後もfailing Fontanと呼ばれる合併症により、房室弁逆流の増加、不整脈、肝機能異常、肝硬変などの肝合併症や、蛋白漏出性胃腸症などを呈することがある。

【所 見】

(胸部)両側低位気管分岐、両側二分葉肺(図1) (図2)
(心臓)両側形態的左心房、心奇形、体静脈還流異常(両側上大静脈、下大静脈欠損、奇静脈結合など)(図3)、徐脈、洞機能不全、房室ブロックなど
(腹部)対称肝(図4)、胃泡転移、腸回転異常(図5)、複数の脾臓(図6)、門脈系の異常(図7)、膵臓の低形成など
(全身)チアノーゼ(肺動静脈瘻)(図8)、易感染性。

図1.

胸部単純X線写真:両側低位気管分岐、洞不全症候群、房室伝導遅延のためペースメーカーが植え込まれている。

図2.

造影胸部CT(環状断):両側低位気管支、両側二分葉肺

図3.

奇静脈からの造影:奇静脈から左上大静脈に還流している。下大静脈欠損の症例である。

図4.

腹部単純X線写真:対称肝、胃泡は左に存在する。

図5.

上部消化管造影:十二指腸が幽門からすぐ下行しており、腸回転異常の所見である。

図6.

腹部造影CT:複数の脾臓を認める。

図7.

門脈-奇静脈短絡からの造影:下大静脈欠損、奇静脈結合の症例。上大静脈-肺動脈吻合術後(total cavopulmonary shunt)のため、奇静脈圧が門脈圧より高く、奇静脈から門脈へと流れる短絡血管を認める。この後経肝的にAMPLATZER™ Vascular Plugで短絡血管を閉鎖した。

図8.

経胸壁心エコー(コントラストエコー):肺動脈で二酸化炭素を含んだマイクロバブルを注入し、肺静脈、心房、心室と大量のマイクロバブルが描出されている。
 


【診断に有用な検査】

胸部X線写真:気管支の走行、胃泡の位置、心尖の向き
胸部CT:気管支の走行、肺の分葉、心内奇形、血管の走行
心電図:徐脈、洞機能不全、房室ブロック
心エコー検査:合併心奇形の有無(共通房室弁、両側上大静脈、下大静脈欠損、大血管転位など)
腹部エコー検査:脾臓の数・分葉の有無、腸回転異常の有無、肝静脈の還流、胆道閉鎖、門脈系の異常、膵臓の低形成など
腹部CT:脾臓の数・分葉の有無、腸回転異常の有無、肝静脈の還流、胆道閉鎖、門脈系の異常、膵臓の低形成など
心臓カテーテル検査・血管造影:心奇形の形態・血行動態の評価など

【フォローに必要な検査】

心エコー検査:合併心奇形の経過観察
腹部エコー検査・腹部CT:肝臓の評価、腸閉塞等の評価
心臓カテーテル検査:合併心奇形の経過観察
血液検査:肝機能評価、酸素飽和度、蛋白定

【治 療】

 心奇形:心室、房室弁、大血管の位置関係、静脈系の心房への還流位置などにより、二心室修復または単心室修復(フォンタン手術)になるか決定する。成人期は多くの症例が術後である。心房中隔欠損はカテーテル治療の適応となる場合があるが、下大静脈欠損、奇静脈結合には注意する。頻脈性不整脈との兼ね合いで、治療戦略を立てる必要がある。フォンタン手術後はfailing Fontanと呼ばれる合併症に対する治療が必要である。血栓症に対する抗血栓療法も必要である。蛋白漏出性胃腸症は著効する治療法がなくその予後に影響する。
 徐脈、不整脈:頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーションや徐脈・洞機能不全・完全房室ブロックに対しペースメーカー植え込みが必要なこともある。
 肺循環:肺動静脈瘻が形成されやすく、酸素飽和度が若干低い症例が多い。
 門脈系:門脈大循環短絡は塞栓術や結紮術の適応である。放置すると、肺高血圧、肝肺症候群(肺動静脈瘻)、脳症等を引き起こす。
 肝:肝硬変に対し肝移植も考慮される。下大静脈欠損の症例は肝静脈の吻合に工夫が必要である。本症候群の胆道閉鎖による肝不全に対する報告はあるが、Fontan術後の状態での肝臓移植の報告は現在のところ存在しない。
 消化管:腸回転異常は、成人期に初めて診断されることがあり、腹痛や嘔吐を周期的に繰り返す症例には注意を要する。

【予 後】

 合併心奇形の治療が必要であるが、同じ心房内臓錯位症候群でも無脾症と比べると、その予後は良好である。しかし複雑心奇形が多く、フォンタン手術の適応になることもしばしばである。failing Fontanの症状が出現すると予後不良である。免疫異常があることが証明されているが、無脾症のような電撃的感染をおこすことは少ない。合併心奇形が軽度または存在せず、特に症状を認めず、成人で他疾患の検査で発見されることもある。徐脈、洞機能不全、房室ブロックは年齢とともに顕在化もしくは悪化することが知られている。ペースメーカー植え込みが必要な場合も少なくない

【引用文献】

1.篠原徹.心房内臓錯位症候群の臨床.近畿大医誌2009.34:3;177-183
2. 永沼万寿喜、松尾準雄、吉武克宏、清水興一、森川征彦.先天性心奇形と肺分葉異常.心臓 1976.8:10;999-1005
3. 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_niwa_h.pdf
3.先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン(2012改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_echigo_h.pd

 

 
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